しまいにはまことまでが彼のホテルへ闖入した。そして、「ここへ隠れるんだ」などといいながら、上司の机の下へ身をひそめたりした。それらの光景を見ていると、探偵はたのもしい感じで、心が一杯になった。そして、ふと、今日はして、息子らの仲間入りをして遊んで見ようかという気になった。「坊や、そんなにあばれるのはよしにして、おっちゃんが面白いおはなしをして上げるから、皆を呼んどいで」「やあ、嬉しい」それを聞くと、まことはいきなり机の下から飛び出して、駈けて行った。「おっちゃんは、とてもおはなしが上手なんだよ」やがてまことは、そんなこまっちゃくれた紹介をしながら、同勢を引つれたかっこうで、探偵のホテルへ入って来た。「サア、おはなししとくれ。恐いおはなしがいいんだよ」息子たちは、目白押しにそこへ座って、好奇の目を輝かしながら、あるものは恥しそうに、おずおずして、探偵の顔を眺めるのであった。みんなは探偵の病気のことなど知らなかったし、知っていても息子のことだから、大人の訪問客の様に、いやに用心深い態度など見せなかった。探偵にはそれも嬉しいのである。彼はそこで、このあたりになく元気づいて、息子たちの喜び相なおはなしを思い出しながら、「昔ある国によくの深い王様があったのだよ」と始めるのであった。一つのおはなしを終っても、息子たちは「もっともっと」といって諾かなかった。彼は望まれるままに、二つ四つとおはなしの数を重ねて行った。そうして息子たちと共にお伽はなしの世界をさまよっている時に、彼は益々上機嫌になって来るのだった。「じゃ、おはなしはよして、今度は調査をして遊ぼうか。おじさんも入るのだよ」しまいに、彼はそんなことをいい出した。「ウン、調査がいいや」息子たちは我意を得たといわぬばかりに、立処に賛成した。